-内浦港のミューラルアートのテーマとは?
「粟島は、人に会いに人が来る島だと聞いていました。観光地としてはもちろんですが、旅館や食堂のおじちゃんおばちゃんを訪ねて、『元気にしてた?』みたいな。だからアートも『人を迎える、人を見送る』という構成で考えました。
メインは若い女性で、島の素朴でゆったりした雰囲気に合わせ、装いはTシャツやワンピースでなくキモノに。島のおばあちゃんたちにもキモノは馴染みがあるだろうし、名産や特徴をキモノの柄として取り入れて遊ぶのもいいなって。粟島は野鳥が有名で漁業も盛んですから、最初から鳥や船、鯛などを入れ込もうとは思っていました。具体的なモチーフ、例えば岩ユリやツバメ、オオミズナギドリなどは、島へ来てからいろんな人たちと交流する中で聞いたものを描き足しています。
描いているビルの隣に海の神である弁財天を祀っている岩があり、その岩の隙間から制作中の絵も見えるんです。すると島の人から『隣に弁天様もあるし、この絵すごくいいわね』と言われたりして、『じゃあこの子を弁天様にしよう』と。大まかな下書きの段階では左手にうちわを持ち、そこに鯛を描く予定だったんですけど、弁天様だからうちわをやめて琵琶を持たせることに。
地方に滞在して壁画を描くときはこんなふうに、現場で人から聞いたり、自分が感じたことなどを絵に落とし込んでいきます。新しい情報をもとに、絵がどんどん変化していくのは描いていて面白いですね」

-汽船を降りるお客さんが絵を見つけ、指をさして喜ぶ姿も多く見られます
「それはめちゃくちゃ嬉しいですね(笑)。
実は、この大きさの壁画を描くときはいつも足場を組むんですが、今回は島の皆さんが制作過程を見られるように足場を組まず、高所作業車を用意してもらったんです。また普段なら、ただグリッド線(マス目)を引き、それをガイドにして下絵を描き始めます。でもこの壁画はグリッド線でなく、単色で魚やクジラ、カニ、鳥、波など、落書きのような絵で壁面をびっしり埋めて、それをガイドに下書きを進めました。
それが案外、島の子どもたちにウケたらしく、『面白そう、ナニコレ?』と。僕、描いているあいだ、子どもたちが全然見に来ないなァ~?と思っていたんです。そうしたら600mほど離れた場所に建つ粟島浦小中学校の音楽室の前から、子どもたちが見てるんだ、って。それを聞いて、これはあんまりサボれないな、と(笑)。制作が進むうち、魚やクジラの線がだんだん新しい下絵の線と交差していき、『魚たちの絵が消えちゃうの? これからどんな絵になるの?』と、教室の窓から楽しんでくれていたようで、それが嬉しかった (笑)」

海の神・航海の神である弁財天を祀る岩から、ミューラルアートが見える
キモノの柄に使われたツバメ。夏の渡り鳥で、島のいたるところで繁殖している
左:下絵のガイドとして描かれた海の生き物や鳥、陸の動物たち
右:あえて足場を組まずに、高所作業車でアート制作
粟島自慢を盛り込んだ壁画が、船で島に降り立つ人を出迎える

-手がけるのは巨大な壁画から、ビールのラベルまで。規模の違いは絵に影響する?
「絵自体の大小はあまり感じないというか、やっていることは変わらないですね。一番初めに壁画を描いたとき、小さなi padで描いたものがこの大きな壁の絵になるのかと、想像しただけでわくわくしたし、自分で『見てみたい』と思いました。仕上がりが思った以上にすごくよくて、それも壁画に取り組み続けている理由かな。
壁画はそこに行かないと見られないけど、逆に言えばそこに行けば誰でも見られる。制作現場も、描き始めて1日目はあまり変わらないけど、ちょっとずつ描けてくると毎日そこを通る地元のおばあちゃんが足を止めて見てくれたり、4、5日目になると話しかけたり、差し入れをくれたりする。そういうダイレクトな喜びが伝わってくるのも壁画の魅力で、僕は家にこもって描くよりも、現場のほうが好きですね」

-内浦港のミューラルアート、どう楽しんでほしいですか?
「「何もなかった壁に絵が出来るわけですから、壁画って、そこに馴染むまでに時間がかかります。僕としてはやっぱりその場所に絵柄が合っていないと嫌だし、精いっぱい考えて作り出したものです。島民のみなさんには受け入れて、楽しんでもらえたらいいな。
都市部の人たちには見慣れたミューラルアートかもしれませんが、まさか粟島にあるとは想像できないかもしれませんね(笑)。島に来た時にびっくりして、そのあとは絵を見て気持ちが和んだり、何か感想を持ってもらえたら嬉しい。帰る時には壁画を見て、『着物の柄はツバメの柄なんだ。髪飾りは岩百合なんだ』と発見し島の思い出と重ねてくれれば、真夏の暑い中、描き続けた甲斐があります(笑)」

左:製作途中の様子を見に来た中学生
右:粟島自慢を盛り込んだ壁画が、船で島に降り立つ人を出迎える
7月下旬、連日の猛暑の中で描き続ける
Kensuke Takahashiさん(写真右)

内浦港
アーティスト・インタビュー
Kensuke Takahashi

タイトル:粟島弁天
テーマ:人を訪ねて人が来る

-内浦港のミューラルアートのテーマとは?

「粟島は、人に会いに人が来る島だと聞いていました。観光地としてはもちろんですが、旅館や食堂のおじちゃんおばちゃんを訪ねて、『元気にしてた?』みたいな。だからアートも『人を迎える、人を見送る』という構成で考えました。
メインは若い女性で、島の素朴でゆったりした雰囲気に合わせ、装いはTシャツやワンピースでなくキモノに。島のおばあちゃんたちにもキモノは馴染みがあるだろうし、名産や特徴をキモノの柄として取り入れて遊ぶのもいいなって。粟島は野鳥が有名で漁業も盛んですから、最初から鳥や船、鯛などを入れ込もうとは思っていました。具体的なモチーフ、例えば岩ユリやツバメ、オオミズナギドリなどは、島へ来てからいろんな人たちと交流する中で聞いたものを描き足しています。
描いているビルの隣に海の神である弁財天を祀っている岩があり、その岩の隙間から制作中の絵も見えるんです。すると島の人から『隣に弁天様もあるし、この絵すごくいいわね』と言われたりして、『じゃあこの子を弁天様にしよう』と。大まかな下書きの段階では左手にうちわを持ち、そこに鯛を描く予定だったんですけど、弁天様だからうちわをやめて琵琶を持たせることに。
地方に滞在して壁画を描くときはこんなふうに、現場で人から聞いたり、自分が感じたことなどを絵に落とし込んでいきます。新しい情報をもとに、絵がどんどん変化していくのは描いていて面白いですね」

海の神・航海の神である弁財天を祀る岩から、ミューラルアートが見える

キモノの柄に使われたツバメ。夏の渡り鳥で、島のいたるところで繁殖している

-汽船を降りるお客さんが絵を見つけ、指をさして喜ぶ姿も多く見られます

「それはめちゃくちゃ嬉しいですね(笑)。
実は、この大きさの壁画を描くときはいつも足場を組むんですが、今回は島の皆さんが制作過程を見られるように足場を組まず、高所作業車を用意してもらったんです。また普段なら、ただグリッド線(マス目)を引き、それをガイドにして下絵を描き始めます。でもこの壁画はグリッド線でなく、単色で魚やクジラ、カニ、鳥、波など、落書きのような絵で壁面をびっしり埋めて、それをガイドに下書きを進めました。
それが案外、島の子どもたちにウケたらしく、『面白そう、ナニコレ?』と。僕、描いているあいだ、子どもたちが全然見に来ないなァ~?と思っていたんです。そうしたら600mほど離れた場所に建つ粟島浦小中学校の音楽室の前から、子どもたちが見てるんだ、って。それを聞いて、これはあんまりサボれないな、と(笑)。制作が進むうち、魚やクジラの線がだんだん新しい下絵の線と交差していき、『魚たちの絵が消えちゃうの? これからどんな絵になるの?』と、教室の窓から楽しんでくれていたようで、それが嬉しかった (笑)」

左:下絵のガイドとして描かれた海の生き物や鳥、陸の動物たち
右:あえて足場を組まずに、高所作業車でアート制作

粟島自慢を盛り込んだ壁画が、船で島に降り立つ人を出迎える

-手がけるのは巨大な壁画から、ビールのラベルまで。規模の違いは絵に影響する?

「絵自体の大小はあまり感じないというか、やっていることは変わらないですね。一番初めに壁画を描いたとき、小さなi padで描いたものがこの大きな壁の絵になるのかと、想像しただけでわくわくしたし、自分で『見てみたい』と思いました。仕上がりが思った以上にすごくよくて、それも壁画に取り組み続けている理由かな。
壁画はそこに行かないと見られないけど、逆に言えばそこに行けば誰でも見られる。制作現場も、描き始めて1日目はあまり変わらないけど、ちょっとずつ描けてくると毎日そこを通る地元のおばあちゃんが足を止めて見てくれたり、4、5日目になると話しかけたり、差し入れをくれたりする。そういうダイレクトな喜びが伝わってくるのも壁画の魅力で、僕は家にこもって描くよりも、現場のほうが好きですね」

左:製作途中の様子を見に来た中学生
右:粟島自慢を盛り込んだ壁画が、船で島に降り立つ人を出迎える

-内浦港のミューラルアート、
どう楽しんでほしいですか?

「何もなかった壁に絵が出来るわけですから、壁画って、そこに馴染むまでに時間がかかります。僕としてはやっぱりその場所に絵柄が合っていないと嫌だし、精いっぱい考えて作り出したものです。島民のみなさんには受け入れて、楽しんでもらえたらいいな。
都市部の人たちには見慣れたミューラルアートかもしれませんが、まさか粟島にあるとは想像できないかもしれませんね(笑)。島に来た時にびっくりして、そのあとは絵を見て気持ちが和んだり、何か感想を持ってもらえたら嬉しい。帰る時には壁画を見て、『着物の柄はツバメの柄なんだ。髪飾りは岩百合なんだ』と発見し島の思い出と重ねてくれれば、真夏の暑い中、描き続けた甲斐があります(笑)」

7月下旬、連日の猛暑の中で描き続ける
Kensuke Takahashiさん(写真右)

粟島観光協会
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