-「自然」がテーマのミューラルアート
「コンセプトとしては『小さな島の大きな自然』。そこに滞在制作の中でふくらんだイメージを盛り込み、日々描いてきました。
来島前は自然の印象が大きくて、ラフスケッチには漁船はなく、もっと大きい海洋動物を描く予定でした。でも島で村の人たちと交流をしたり、漁師さんたちの仕事場で描かせてもらう中で、人々の暮らしを感じられるものも入れたいな、と。人間と自然の共生を描きたくなりました。
粟島には昔、島固有の馬がいたということで、ユニコーンがモチーフの一つになっています。僕も馬は大好き。馬の体の色合いは現在、島にいる『あわしま牧場』の馬たちを手本にしました。
全体的な構図は、真ん中に大きな太陽があり、両サイドが島。人と自然の空間には境界線がなく、グラデーションです。そこから自然のほうに出て行くのか、それとも自然のエネルギーが島に入って来るのか……? それはもうどちらでも、見る人の感じ方に委ねたいと思います」

-壁画WS(ワークショップ)で、島民も1日アーティストに
「滞在期間は約1か月。梅雨が重なって制作が遅れたこともあり、晴れた日には照明を借りて、深夜作業も行いました。
長丁場で気が向かないときや、あまりに暑い日には、作業を止めて海に入ったりもしました。海には海の世界があり、粟島の別の貌(かお)です。そんなふうに、陸地を含め上下左右、海の中からも、島に対するイメージが押し寄せてきます。そういう、自分を駆り立てるもの全てから影響を受け絵に向かう、という日々でした。
制作開始から10日後には、島民の皆さんと一緒に壁画を描きました。下絵の上にチョークで『自分が好きなもの、イメージするもの』の絵を描いてもらい、僕がペンキで仕上げをします。みんな楽しかったみたいで、別の日にも「描きたい、描きたい」とせがむ子もいて(笑)。手伝える作業があればやってもらったり、地面にチョークで絵を描いて遊んでもらったりしました。絵は雨で消えちゃうけど、チョークを使い港に絵を描く機会なんてなかっただろうから、子どもたちには新たな刺激だったかもしれませんね。
WSには関東からよく来島するという、小学生の女の子も参加しました。すると次の日、僕の作業用の脚立に手紙と絵が貼られていたんです。『目標ができました。いつかプロになってお会いしたいです』と、明確な内容で。まだ4年生くらいだと思うんですが、その頼もしさに僕もうるっときてしまいました」

縦4m、横40mの大きな防波堤がキャンバスに
ユニコーンのモデルになった、あわしま牧場の馬たち
梅雨で作業予定が遅れ、夜も描き続けた7月中旬
左:大勢の子どもたちでにぎわったWS(写真中央は岩切さん)
右:WSでは描き足りず、地面にチョークで絵を描き続ける少女

-用いた手法は「con la tierra(コン・ラ・ティエラ)」。「循環」がコンセプトとか?
「今回の壁画の描き方はまず、堤防を真っ黒な下地で塗ります。次に花火や水玉模様のようなカラフルな色をのせ、その上から型抜きのように白くモチーフを描き出していきます。この手法を『con la tierra』(スペイン語で『地球と共に』の意)と呼んでいます。
 僕は2000年代後半に中南米を訪れ、ラテンアメリカの先住民文化に触れてきました。そこで『自然を崇め、自然の中で暮らすルール(作法)に則ること』を再確認し、作品にも反映してきたんです。その後、東日本大震災をきっかけに描き始めたのが、『con la tierra』というスタイル。白で描かれたモチーフは自然の下にあり、人々の暮らしは常に地球と共にある。忘れてはいけないものなんです。
 この手法は誰でもできるので、僕が帰ったあと、島のみんながどんどん描いていくというのも一つの手だと思います。ペンキがあればいつでも描けて、実際、子どもたちに描かせたら感性が爆発するし、大人も面白がって取り組んでくれる。島中の空いている壁面が絵になっていったら、来島した人にも感動や刺激がある。
うまいへたではなく、いかに楽しんで描き続けられるか。『自家発電』ですよね。自分たちで動いて、自分たちの環境を良くする。それがいい循環なんじゃないでしょうか」

自然の中の、人の営みを意識して

-どんなふうに愛される絵でありたいですか?
「粟島は日本海に浮かぶ島。険しい岩と冷たい海水、寡黙な漁師、新鮮な魚……。来島前は粟島ってもっと閉鎖的で、いぶし銀な感じを想像していましたが、みなさん気さくに輪に入れてくれて物腰も柔らかいし、島にはのんびりとした穏やかな暮らしと時間がありました。すぐ仲良くしてもらい、島に来て数日後には早朝4時から食堂のお母さんとジャガイモ掘りをしたり(笑)。島の人たちとの交流があったお陰で、長い制作期間の生活が豊かになりました。
島民や観光客のみなさんに愛着を持ってもらえたら、僕の作品も長くこの島に溶け込んでいけるんじゃないかな。そのために、やれることはやりまくった1か月ですから(笑)。近くで見ても遠くからでも、どこから見てもそれぞれ見えてくるものがある。朝や夕方、雨の日雪の日など、見る日によって『こんなモチーフがあったんだ、いたんだ』と景色は変わってくる。荒れた日にも、何か明るい気持ちになってもらえる絵であれば、僕も嬉しいですね」

釡谷漁港の前にある食堂から
アートがよく見える

≪釡谷漁港防波堤WSレポート≫
7月中旬、島民を対象にしたミューラルアートのワークショップ(WS)を実施。大勢の子どもたちと保護者、近隣住民が集まり、めいめいに「好きなもの」を描きました。
釡谷地域に住んでいる子どもたちは7月初旬の制作開始から、「あれは花火を描いているのかな」「水玉模様がかわいいね」と、何が描き上がってくるのかを楽しみにしていた様子。岩切さんが釡谷の旅館に宿泊していたこともあり、“絵描きのお兄さん”と親しんでいました。
WS当日は内浦からも小さな子どもたちが駆け付け、大にぎわいに。手形を描く子、空想のキャラクターを描く子、大好きな葉っぱを描く子。タコやイカや魚やわっぱ煮、そしてお友達の笑顔もいっぱい! 生き生きと元気な絵がたくさんでき上がりました。
大人からは壁画について、「巨大な絵ではあるけれど、実は小さなスペースの積み重ね。すごいなぁと思います」。

 
アートが子どもたちに与える影響は未知数と言い、「まず、絵を描いて暮らしている人もいる、と知れたことは子どもたちにとって良い機会だったと思います」。
WSでは描き足りず、翌日以降も岩切さんを手伝ったり、地面にチョークで絵を描くなど、子どもたちの楽しい時間は8月過ぎまで続きました。
みなさんもぜひ、みんなで描いたミューラルアートを見に来てください。ひとつ一つのユニークなモチーフが、あなたに微笑みをお届けします!

子どもも大人も集中し、描くことを楽しんだWS。この思い出が島の中でどう発展するかも、ミューラルアートの〝つづき〟

釡谷漁港防波堤
アーティスト・インタビュー
岩切 章悟

タイトル:Fanfarria(ファンファーレ)
テーマ:小さな島の大きな自然

-「自然」がテーマのミューラルアート

「コンセプトとしては『小さな島の大きな自然』。そこに滞在制作の中でふくらんだイメージを盛り込み、日々描いてきました。
来島前は自然の印象が大きくて、ラフスケッチには漁船はなく、もっと大きい海洋動物を描く予定でした。でも島で村の人たちと交流をしたり、漁師さんたちの仕事場で描かせてもらう中で、人々の暮らしを感じられるものも入れたいな、と。人間と自然の共生を描きたくなりました。粟島には昔、島固有の馬がいたということで、ユニコーンがモチーフの一つになっています。僕も馬は大好き。馬の体の色合いは現在、島にいる『あわしま牧場』の馬たちを手本にしました。
全体的な構図は、真ん中に大きな太陽があり、両サイドが島。人と自然の空間には境界線がなく、グラデーションです。そこから自然のほうに出て行くのか、それとも自然のエネルギーが島に入って来るのか……? それはもうどちらでも、見る人の感じ方に委ねたいと思います」

-壁画WS(ワークショップ)で、島民も1日アーティストに

「滞在期間は約1か月。梅雨が重なって制作が遅れたこともあり、晴れた日には照明を借りて、深夜作業も行いました。
長丁場で気が向かないときや、あまりに暑い日には、作業を止めて海に入ったりもしました。海には海の世界があり、粟島の別の貌(かお)です。そんなふうに、陸地を含め上下左右、海の中からも、島に対するイメージが押し寄せてきます。そういう、自分を駆り立てるもの全てから影響を受け絵に向かう、という日々でした。
制作開始から10日後には、島民の皆さんと一緒に壁画を描きました。下絵の上にチョークで『自分が好きなもの、イメージするもの』の絵を描いてもらい、僕がペンキで仕上げをします。みんな楽しかったみたいで、別の日にも「描きたい、描きたい」とせがむ子もいて(笑)。手伝える作業があればやってもらったり、地面にチョークで絵を描いて遊んでもらったりしました。絵は雨で消えちゃうけど、チョークを使い港に絵を描く機会なんてなかっただろうから、子どもたちには新たな刺激だったかもしれませんね。
WSには関東からよく来島するという、小学生の女の子も参加しました。すると次の日、僕の作業用の脚立に手紙と絵が貼られていたんです。『目標ができました。いつかプロになってお会いしたいです』と、明確な内容で。まだ4年生くらいだと思うんですが、その頼もしさに僕もうるっときてしまいました」

縦4m、横40mの大きな防波堤がキャンバスに

ユニコーンのモデルになった、あわしま牧場の馬たち

梅雨で作業予定が遅れ、夜も描き続けた7月中旬

左:大勢の子どもたちでにぎわったWS(写真中央は岩切さん) 右:WSでは描き足りず、地面にチョークで絵を描き続ける少女

-用いた手法は「con la tierra(コン・ラ・ティエラ)」。「循環」がコンセプトとか?

「今回の壁画の描き方はまず、堤防を真っ黒な下地で塗ります。次に花火や水玉模様のようなカラフルな色をのせ、その上から型抜きのように白くモチーフを描き出していきます。この手法を『con la tierra』(スペイン語で『地球と共に』の意)と呼んでいます。
 僕は2000年代後半に中南米を訪れ、ラテンアメリカの先住民文化に触れてきました。そこで『自然を崇め、自然の中で暮らすルール(作法)に則ること』を再確認し、作品にも反映してきたんです。その後、東日本大震災をきっかけに描き始めたのが、『con la tierra』というスタイル。白で描かれたモチーフは自然の下にあり、人々の暮らしは常に地球と共にある。忘れてはいけないものなんです。
 この手法は誰でもできるので、僕が帰ったあと、島のみんながどんどん描いていくというのも一つの手だと思います。ペンキがあればいつでも描けて、実際、子どもたちに描かせたら感性が爆発するし、大人も面白がって取り組んでくれる。島中の空いている壁面が絵になっていったら、来島した人にも感動や刺激がある。
うまいへたではなく、いかに楽しんで描き続けられるか。『自家発電』ですよね。自分たちで動いて、自分たちの環境を良くする。それがいい循環なんじゃないでしょうか」

自然の中の、人の営みを意識して

-どんなふうに愛される絵でありたいですか?

「粟島は日本海に浮かぶ島。険しい岩と冷たい海水、寡黙な漁師、新鮮な魚……。来島前は粟島ってもっと閉鎖的で、いぶし銀な感じを想像していましたが、みなさん気さくに輪に入れてくれて物腰も柔らかいし、島にはのんびりとした穏やかな暮らしと時間がありました。すぐ仲良くしてもらい、島に来て数日後には早朝4時から食堂のお母さんとジャガイモ掘りをしたり(笑)。島の人たちとの交流があったお陰で、長い制作期間の生活が豊かになりました。
島民や観光客のみなさんに愛着を持ってもらえたら、僕の作品も長くこの島に溶け込んでいけるんじゃないかな。そのために、やれることはやりまくった1か月ですから(笑)。近くで見ても遠くからでも、どこから見てもそれぞれ見えてくるものがある。朝や夕方、雨の日雪の日など、見る日によって『こんなモチーフがあったんだ、いたんだ』と景色は変わってくる。荒れた日にも、何か明るい気持ちになってもらえる絵であれば、僕も嬉しいですね」

釡谷漁港の前にある食堂からアートがよく見える

≪釡谷漁港防波堤WSレポート≫
7月中旬、島民を対象にしたミューラルアートのワークショップ(WS)を実施。大勢の子どもたちと保護者、近隣住民が集まり、めいめいに「好きなもの」を描きました。
釡谷地域に住んでいる子どもたちは7月初旬の制作開始から、「あれは花火を描いているのかな」「水玉模様がかわいいね」と、何が描き上がってくるのかを楽しみにしていた様子。岩切さんが釡谷の旅館に宿泊していたこともあり、“絵描きのお兄さん”と親しんでいました。
WS当日は内浦からも小さな子どもたちが駆け付け、大にぎわいに。手形を描く子、空想のキャラクターを描く子、大好きな葉っぱを描く子。タコやイカや魚やわっぱ煮、そしてお友達の笑顔もいっぱい! 生き生きと元気な絵がたくさんでき上がりました。
大人からは壁画について、「巨大な絵ではあるけれど、実は小さなスペースの積み重ね。すごいなぁと思います」。
アートが子どもたちに与える影響は未知数と言い、「まず、絵を描いて暮らしている人もいる、と知れたことは子どもたちにとって良い機会だったと思います」。
WSでは描き足りず、翌日以降も岩切さんを手伝ったり、地面にチョークで絵を描くなど、子どもたちの楽しい時間は8月過ぎまで続きました。
みなさんもぜひ、みんなで描いたミューラルアートを見に来てください。ひとつ一つのユニークなモチーフが、あなたに微笑みをお届けします!

子どもも大人も集中し、描くことを楽しんだWS。この思い出が島の中でどう発展するかも、ミューラルアートの〝つづき〟

粟島観光協会
〒958-0061 新潟県岩船郡粟島浦村字日ノ見山1491番地8  
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